W杯も終わりだいぶ時間も経ち、Jリーグも復活して2、3試合終わったが、W杯南ア大会の日本代表の戦績や他国の戦績など、さまざまなデータを調べることで、かなり興味深いことが分かってきたようである。
大方の結果は、そういうデータ処理をするまでもなく、実際にサッカーの試合を見ていれば、大筋では理解できる内容である。しかし、実際の試合を冷静に眺め、さまざまな情報を得ようという人、それが出来るという人はよほどのサッカー通か、専門家でなくては難しいことである。それゆえ、後々の客観的なデータ処理により、実際の試合を振り返ることは非常に大切なことである。
昨日、以下のものにそういうデータの一端が紹介されている。
W杯から見えたもの 日本サッカーが目指す道 1
W杯から見えたもの 日本サッカーが目指す道2
W杯から見えたもの 日本サッカーが目指す道 3
W杯から見えたもの 日本サッカーが目指す道 4
この記事は非常に示唆に富む、マスゴミの記事としては今や珍しくなった良質のものであるので、ここにも紹介しておこう。この記事は現在1から4まで順次見ることが出来る。が、いずれ消えるだろうと思われるので、ここにも引用しておこう。
まず最初の1には以下のようにある。
南アフリカのワールドカップ(W杯)が終わって早くも3週間がたつ。その間、日本サッカー協会(JFA)やJリーグではトップの交代があり、副会長から昇格したJFAの小倉純二新会長はイの一番に「日本代表監督の選任」を仕事に挙げた。9月に予定されるパラグアイとの親善試合がお披露目になるだろう新監督への期待を、南アフリカW杯で浮き彫りになったデータを元に考えてみた。
1次リーグのデンマーク戦で勝ち、手をつないで万歳する日本イレブン(6月24日)=写真 今井拓也
攻撃に物足りなさ
南ア大会での日本代表が、当初の予想をいい意味で裏切ってベスト16に勝ち進んだことは本当に快事だった。意思統一がしっかりとれた堅守は、今後も日本代表の戦いの土台とすべきものだろう。ただ、南アでの戦いを冷静に振り返れば、攻撃に物足りなさを感じたのも事実だった。
大会後に集計された数字にも、それは表れている。国際サッカー連盟(FIFA)の統計によると今大会最も多くパスを通したチームは3803本のスペインだ。試合を多くこなせばパスを通した数が増えるのは当然だが、ベスト4に残り、等しく7試合を戦ったチームの中でもスペインのパス成功本数は飛び抜けている(準優勝のオランダは2665本で3位、3位のドイツは2865本で2位、4位のウルグアイは5試合しか戦っていないアルゼンチンの2294本より少ない1890本)。
スペイン、高いパス成功率
スペインの場合、さらに特筆されるのは80%というパス成功率の高さだ。1試合平均で断トツの543.2本のパスを交わしつつ、成功率の項目でもブラジル(79%)を従えてトップである(正確だからこれだけのパスを楽々と交換できる、ともいえる)。
スペインがいかに「パスの国」であるかは、ベスト16に残った中で「ショートパス」「ミドルパス」「ロングパス」の3部門とも成功本数、成功率でトップだったことでも分かる。スペインの精度に辛うじて張り合えたのはブラジルくらいだった(ミドルパスの成功率84%がスペインと同率トップ)。
これによれば、パス総数に関しては、以下のようになるという。もちろん、優勝まで試合数の多いチームの方がパス総数は多くなる。
パス総数(1試合平均)
1位。スペイン(優勝) 3803(543.2)
2位。ドイツ(3位) 2865
3位。オランダ(準優勝)2665
?位。アルゼンチン 2294
?位。アメリカ (293.7)
?位。ウルグアイ(4位)1890(270)
31位。日本 890(222.5)
32位。ニュージーランド (221)
2にはこうある。
パス成功率はワースト
日本はどうか。4試合を戦って890本のパスを交換、1試合平均222.5本という成功本数はニュージーランドの221本をわずかにかわして参加32チーム中最少という“不名誉?”は免れたものの、60%の成功率はニュージーランドの61%より低く、参加チーム中ワースト記録だった。
パスの名手の遠藤らがいたが…(6月24日のデンマーク戦)=写真 今井拓也
ベスト16の中で1試合平均のパス成功本数が200本台で、成功率も60%台だったのはウルグアイ(270本、62%)と米国(293.7本、67%)と日本だけ。特に日本はパスの射程が長くなるほど精度は落ち、ロングパスは319本けってつながったのは115本、成功率は36%でスペインの63%と比べると相当見劣りがする。
走ってはいるが…
これだけミスが多いと、日本の武器である「走り」の中身にも影響は出る。全選手の走行距離を合算した数字をスペインと比べると、日本の1試合平均の走行距離は116.13キロでスペインの109.62キロを上回っている。しかし「ボールをポゼッションして走る距離=攻撃」と「ボールがない状態で走る距離=守備」に区分けすると、前者の1試合平均が日本は34.83キロであるのに対しスペインは48.97キロ。後者が日本は50.78キロであるのに対し、スペインは36.91キロだ。
つまり、その両項目を足したボール絡みのプレーで日本もスペインも等しく85キロほどの距離を走っているものの、プレーの選択に狂いが少ないスペインはチームとしてボールを保持して(簡単にいえば主導権を握って)走る距離の方が長く、技術上のミスや判断ミスが多い日本は相手にボールを渡す機会が多く、それゆえに相手の動きに対応して「走らされる」距離の方が長いことを意味している。どちらのサッカーの消耗が激しいかは推して知るべしだろう。
これによれば、以下のようなデータとなる。
パス成功率
1位。スペイン 80%
2位。ブラジル 79%
31位。ニュージーランド 61%
32位。日本 60%
ショートパス成功率
1位。スペイン
ミドルパス成功率
1位。スペイン 84%
1位。ブラジル 84%
ロングパス成功率
1位。スペイン
ロングパス成功率
スペイン 日本
63% 36%(=115/319)
走行距離(1試合平均)
スペイン 日本
109.62km 116.13km
ボールキープ時の走行距離
スペイン 日本
48.97km 34.83km
ボールキープ以外の走行距離
スペイン 日本
36.91km 50.78km
次に3にはこうある。
最終ラインからのパス出しに差
スペインのように主導権を握れるチームの場合、楽なのはDF陣である。CBのプジョル、ピケ、サイドバックのセルヒオラモス、カプデビラのパス成功率は全員が80%を超えている。全員が正確なキックの持ち主であることに加えて、相手が自陣に散開して守備を固めてくれるので後ろの方の選手は悠々とパスを回せる状況が自然に生まれるのだろう。スペインのDF相手に前がかりでボールを取りに行ったのはチリくらいだった。
パラグアイのサンタクルスと競り合う長友(6月29日)=写真 今井拓也
日本のDF陣は中沢(横浜M)と駒野(磐田)が60%台、闘莉王(名古屋)と長友(FC東京=当時)は50%台というパス成功率。攻撃の第1歩である、最終ラインからのパス出しがこの程度の精度ではまともな組み立ては無理ともいえるし、相手に主導権を握られながら体を張り続けたDFたちにパスの精度まで要求するのは酷という見方もできる。
体格差をハンディとせず
守備のブロックを自陣に敷いた日本の場合、DFたちのショート、ミドルのパスミスは即座に逆襲の餌食になる。それで自陣ゴールから遠ざけることを第一義にロングパスを選択すれば、必然的に精度は落ちる。それも成功率の低さの一因かもしれない。
そういう日本が、この先のW杯でベスト16よりさらに上を目指すためには、何を上積みすればいいのか。
一つの方向性としてスペインのような「パスの国」を目指す道がある。今回のスペインは先発メンバーの平均身長と体重は177センチ、73キロと日本(179センチ、74キロ)より小さいくらいだった。それでも相手の急所を突く戦術眼と、アイデアを可能にする技術力(パスの精度、パスとドリブルのコンビネーション)を武器に体格差を全くハンディとしなかった。
これによれば、以下のようなデータである。
最終ラインからのパスだし成功率
スペイン 日本
プジョル >80% 中澤 〜60%
ピケ >80% 駒野 〜60%
セルジオラモス >80% 長友 〜50%
カプデビラ >80% トゥーリオ 〜50%
体格差
スペイン 日本
177cm 73kg 179cm 74kg
最後の4にはこうある。
究極の理想として…
FCバルセロナという一つのクラブをチームの核にすることで表現できた滑らかさであり、圧倒的な攻撃力で相手陣内にくぎ付けにすることで守備のリスクを減らすというのは相当な試練の道ではある。「パスの国」を目指すというのであれば、日本サッカー界を挙げて長期的な取り組みをしないと無理だろう。それでも究極の理想として目指すだけの価値はある。
日本と似た数字を残しながらベスト4に進んだウルグアイのような「カウンターの国」として身を立てる道もある。1試合平均のパスの本数は200本台、成功率も62%という低さ、ポゼッションして走る距離(38キロ)より、相手ボールを追い回す距離(48.1キロ)の方が多いことも日本と似ている。
「鋭さ」や「勢い」を重視
それでも全員が守備に精勤し、前線にフォルランとルイス・スアレスというワールドクラスのアタッカーがいたことで粘り強く勝ち抜いていった。精度をある程度犠牲にしても「鋭さ」や「勢い」を重視する。こちらは推進力のある選手を前線に用意できるかどうかが成功のカギになるのだろう。
シュートを放つフォルラン。ウルグアイのような「カウンターの国」を目指すか=写真 今井拓也
志向する道で監督選びも違ってくる
おそらく、どちらの道を志向するかで選ぶ監督も違ってくる。特に前者の場合、フル代表だけでなく五輪、ユース年代もひっくるめて思想統一し、戦術・技術両面でサッカーの質を上げていけるイノベーターの資質が求められる。育成のノウハウをしっかり持った監督でないと難しい。後者の場合はより勝負師的な資質が求められよう。
日本の場合、相手との力関係でアジアの戦いでは「パスの国」を装い、本大会になると「カウンターの国」に“衣替え”せざるを得ない事態にしばしば直面する。日本サッカー協会はどんな基準で選ぶにせよ、新監督にはこの殻も破ってほしいものである。
日経の著者たちの結論はなかなかもっともらしいものだが、ここでは今後の日本代表がどのようなチームを目指すべきかということを問題にしている。
しかしながら、私の個人的見解では、もしそういう考え方だけをするのであれば、それはこれまでもずっと同じことをやってきたことにすぎない。ブラジルが優勝すれば、ブラジルと日本を比較してブラジルを目指すにはどうするか?と問い、ドイツが勝てばドイツを目指すにはどうするかと問い、スペインが優勝すればスペインを目指す。こういうやり方である。
しかし、歴史はこういうやり方は間違いであったということを証明しているのである。 こういうキャッチアップ型の処方箋では、トップにはなれないのである。もちろんベスト4にもなれない。
かって、クラマーコーチが日本にやって来た頃は、杉山から釜本への「ウィングプレー」という西ドイツサッカーを学び、ハンス・オフト監督の時代は「中盤のプレス」というオランダサッカーを学び、トルシエ監督時代は「フラットスリー」という3バックシステムのフランスサッカーを学び、ジーコ監督時代は「個の力」のブラジルサッカーを学んだ。この間2回、岡田監督の時代には、「走り回って守りカウンター攻撃」のマリノスサッカーを学んだわけである。
これでサッカーのパス精度は変わったか? 否。まったく変わらなかったのである。
確かに時代ごとに選手も代わり、システムも4−2−4から4−3−3、4−4−2、3−5−2、4−1−4−1などと若干変わったかもしれない。またJリーグができてかなり幼少の頃からサッカーをするものが選手となり、ボールタッチは柔らかくなったかもしれないが、日本サッカーの本質的な部分はまったく変わらなかったのである。
では、何が変わらなかったのか?
これは、今回のデータにあるように、「パス精度の低さ」、「パス成功率」がまったく変わっていないのである。言い換えれば、日本のサッカーでは、個人技術それもリフティングとかトラップとかフリーキックの個人技術ではなく、ロングパス、ゴロのロングパスなど個人技術のパス精度がまったく高まっていなかったということである。
「サッカーとはパスゲームである」という。サッカーのこの定義からすれば、日本のサッカーが「サッカーらしく見えない」一番の原因がここにある。要するに、日本のサッカーが雑で荒く見える。ヘタクソに見えるのは、パスがつながらないからである。パスが下手だからである。
DFはボールをクリアの際に「セーフティーファースト」であればいいと適当にどこへでも蹴ってしまう。だからすぐに相手に取られる。そこで味方につなげない。ところが、スペインやブラジルに限らず、サッカーの根付く国々のチームでは、どんな場面でもボールをつなごうとする。これが世界のトップレベルと日本サッカーの差である。
そんなわけで、私の個人的見解では、日本がウルグアイやスペインやブラジルやオランダのどの国のまねをすべきかどうかという問題以前に、日本はサッカーの基礎技術を高める練習方法を編み出すべきである。いくら近代戦術を学んで、こう攻撃しろといったとしてもその攻撃を行う際のパス精度が悪ければその攻撃パターンすら実現できないからである。戦術以前に、やはりどんな場面でも正確に「止めて、蹴る」、「トラップする、キープドリブルする、パスを出す」の基本ができる選手を育成すべきである。
私の個人的観察では、最近の若い選手たちは、せまい四角い領域の中でちまちました「パス回し」練習ばかりしているように思う。この弊害が出て来たのだろうと思う。最近のクラブチームや学校のサッカー部のウォーミングアップにしろ、基本練習にしろ、パス練習にしろ、なにか小学生サッカー練習の延長で、本当にちまちました練習ばかりしている。だから、狭いところでのショートパスは繋がるが広い展開サッカーのロングパスがまったく繋がらないのである。狭い領域しか蹴らないからキック力もつかない。
一方、我々の時代(1970年代)のサッカー部は、グランド全体をつかったサッカー練習を中心に行って来た。だから、トラップなどの個々の個人技術では劣ったとしても、大きな展開のためのロングキックの精度は今以上にあったように思う。実際、我々の時代では(今いうコーンもマーカーも使わず)、アップはコート半分の距離をダッシュしていたし、ジグザクパスなど2人組3人組パスはグランドのゴールライン間を行ったり来たりして行っていたものである。だいたい2時間の練習のうち最初の1時間はパス練習に費やした。残りの1時間でウィングプレーやシュート練習や戦術練習にあてたものである。(例えば、「
サッカー練習日誌」参照)
そんなわけだから、今と昔のサッカー部の練習風景はかなり違うと思う。昔のサッカー部と聞けば、だれもが延々と二人組でジグザクパスをやっているという姿を思い浮かべたが、今のサッカー部と聞けば、色付きのビブズを着て狭い領域でパス回ししている姿を思い浮かべるのである。